本研究は、認知資源の神経基盤と配分機構の解明を目的とした。認知資源とは、一定の容量限界を持つ心的エネルギーであり、様々な認知活動の遂行に不可欠であるとされる。認知資源が脳内に存在する証拠として、2つのことを同時に実行しようとするとどちらも上手くできない「二重課題干渉」という現象が知られている。本研究では、(1)前頭連合野外側部の尾側(46野、9/46野)と吻側(10野)から、32本の移動式の神経活動記録用電極を慢性留置、あるいは、32ch多点深部電極(Plexon U-probe)によって記録された、二重課題中の神経活動を解析した。(2)約800個(46野、9/46野)と約400(10野)のニューロン活動を分析した結果、前頭連合野外側部尾側(46野、9/46野)のニューロン活動は、課題遂行に必要な情報を強く表象すると同時に、個体が行動レベルで二重課題干渉を示すのに応じて二重課題干渉効果を呈することが示された。一方、前頭連合野外側部吻側(10野)のニューロンは、尾側部とは異なり、課題遂行に必要な情報を殆ど表象していなかった。応答を示した10野のニューロンの殆どが、課題の各試行中に外界の情報を表象するのではなく、試行終了直後に、自分が行った行動とその結果のconjunctionを表象していた。これらの結果から、一部の解剖学的先行研究で示唆されていたように、NHPの10野は、複雑な認知情報処理を担う最高次の脳領域とされるヒト10野とは相同の領域ではないことが示唆された。本研究は、研究協力者である大阪大学国際医工情報センター平田雅之寄附研究部門教授の協力のもとで実施された。すべての実験は、実施機関の動物実験倫理委員会の規定に基づいて行った。
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