研究課題
本研究は,高度な認知機能の基盤とも言えるワーキングメモリの個人差に着目し,前頭葉の仕組みからその全容を解明することを目指している。平成29年度は,前頭葉の脳波に着目し,ワーキングメモリ課題遂行中に見られる脳波の特性を詳しく調べることに力を注いだ。中でも,課題遂行中に麻酔薬を投与し,そのときの前頭葉から現れる脳波の変化の分析をおこなった。課題には,聴覚空間性のワーキングメモリ課題を用い,実験参加者には,左右のスピーカから呈示される音刺激について,音の高さと呈示位置を組み合わせて記憶することを求めた。この課題遂行中に,全身麻酔薬の濃度を調整し,反応消失が認められる濃度の75%,50%,25%,そして麻酔薬投与前の課題成績の測定をおこなった。その結果,最も鎮静レベルの深い75%濃度では,課題の遂行がほぼ不可能であったのに対し,鎮静レベル中程度の50%濃度では,音と位置を組み合わせの記憶に対して選択的に作用し,課題成績を低下させた。このときの脳波を調べてみると,通常のP3成分の上昇が認められたが,その後の電位の低下が,麻酔薬投与前と25%濃度と比べて有意に小さかった。これは,前頭葉領域における活動の脱抑制が,ワーキングメモリの機能を阻害することを示す結果と捉えることができる。前頭葉のP3成分は,前頭葉と頭頂葉間の協調活動や,前頭葉と視床領域との協調活動を反映していると考えられていることから,麻酔薬下における前頭葉領域の脳波の変化は,これらの領域間の協調的活動の乱れを表しているのかもしれない。
2: おおむね順調に進展している
脳画像データの領域間結合解析を進めており,ワーキングメモリ機能の全容解明に向けて着実に研究が進んでいる。また,前頭領域から計測された脳波活動をまとめた研究論文は国際意識学会が刊行するNeuroscience of Conscisouness誌に掲載されており,ワーキングメモリや意識に携わる研究者の注目を浴びることが期待できる。
脳波に加え,脳機能画像の分析を進展させることで,前頭葉とワーキングメモリ容量の関係性について未だ明らかにされていない脳神経メカニズムの解明に取り組む。
論文査読者から多くの脳波データの解析が求められ,予想以上の時間を要したために,予定していたfMRI実験を先送りせざるをえなかった。脳波に関する論文は専門誌に受理されたため,迅速に実験に移ることで,研究期間内に当初の目的に到達できるようデータの収集を進める。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Neuroscience of Consciousness
巻: 4 ページ: niy002
10.1093/nc/niy002
PLoS One
巻: 12 ページ: e0183635
10.1371/journal.pone.0183635
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