研究課題/領域番号 |
16K21690
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研究機関 | 一般財団法人電力中央研究所 |
研究代表者 |
板橋 秀一 一般財団法人電力中央研究所, 環境科学研究所, 主任研究員 (10714537)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 沈着量 / ソース・レセプター解析 / 化学物質輸送モデル / トレーサー法 / 直接感度解析法 |
研究実績の概要 |
研究の2年目となる本年度では,沈着量に対する直接感度解析法の開発を研究計画の中心としており,研究計画の予想通りに難航したものの,ほぼ計画通りに研究を進展させることができた. まず,初年度に実施した硫酸塩を対象としたトレーサー法によるソース・レセプター解析の通年計算結果をもとに,直接感度解析法の対象とするべきイベント期間の抽出を行った.排出量をゼロとしたゼロ・アウト法との比較結果から,冬季における非線形性が示唆されていたが,大気中濃度と沈着量は国内ではともに最小となる季節であるため,夏季の4ケースの降水イベントを対象とすることとした. 対象とする降水イベントにおいて,開発した直接感度解析法を適用したところ,数値モデルに与える初期条件次第では計算不安定となる場合がある問題点があった.この点については全球化学輸送モデルを用いるなどのさまざまな初期条件を検討した.また,降水量やそのタイミングなど,降水現象は気象モデルによる再現性が不十分な場合もある.湿性沈着量については,モデルで計算された降水量を観測された降水量で置き換えることにより,その再現性を改善できることが先行研究で示されており,東アジアでも再現性の向上につながることを確認した.湿性沈着量の再現性の向上のため,気象モデルで利用可能な積雲パラメタリゼーションおよび雲微物理過程の種々の設定についての検証も同時に進めた. 硫酸塩と同様に主要な酸性物質である硝酸塩の湿性沈着の現状を把握するため,観測データをもとにして東アジア域の15年分の経年変化を解析し,学術論文としてとりまとめた.中国由来の人為起源排出量変化に伴い,硝酸塩は近年ではより重要な酸性沈着の要因となっていることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に実施した硫酸塩を対象としたトレーサー法によるソース・レセプター解析の結果については,米国地球物理学連合(AGU)のJournal of Geophysical Research -Atmosphereより学術論文として出版された. 研究計画として予定していた通り,直接感度解析法の開発は最も困難な部分ではあったが,一通りの目処をつけることができた.対象とする夏季の降水イベントへの適用を図りながら,最終年度には学術論文としてとりまとめを行うことを目指す. また,硫酸塩と硝酸塩の経年変化を観測の視点からとりまとめた結果は,欧州地球物理学連合(EGU)のAtmocpheric Chemistry and Physicsより学術論文として出版された.東アジアにおける観測データへの知見を集約できたので,硫酸塩を対象に開発を進めているトレーサー法および直接感度解析法を,硝酸塩についても応用していくことを最終年度には進展させたい. 以上の理由により(2)おおむね順調に進展している,と進捗状況について報告を行う.
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今後の研究の推進方策 |
直接感度解析法を夏季の降水イベントに適用した結果の問題点から,場合によっては直接感度解析法を適用する数値モデルそのものを別の数値モデルに変更することも想定し,最終成果としてとりまとめることを目指す.非線形性が示唆された冬季への適用も視野に入れる.これにより,硫酸塩についてはトレーサー法と直接感度解析法の両手法が適用可能となり,沈着量に対するソース・レセプター解析の新展開を図ることが可能となる. 観測データをもとに,近年ではより重要な要素となっていることがわかった硝酸塩についても,硫酸塩を対象に開発した両手法を応用していくことを目指す.
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