背側線条体はマトリックスとストリオソームという解剖学的、神経化学的にも大きく異なる二つの機能領域(線条体コンパートメント)に分かれている。ストリオソームは線条体の15%以下を占めるにすぎないが、強化学習に重要なドーパミンニューロンと相互に連絡する解剖学的な特徴を持ち、価値判断や評価に関わることが近年示されている。またストリオソームは、ドーパミン受容体の反復刺激により誘発される常同行動との関連が示唆されてきた。常同行動は同じ動作を無意味に繰り返す行動異常である。 本研究では、常同行動の出現と増悪は線条体コンパートメントの興奮性や可塑性の異常に起因すると予想し、常同行動モデルの線条体局所神経回路を細胞生理学的に調べている。ダブルトランスジェニックマウスを用いることで線条体コンパートメント、直接路または間接路を見分け、線条体投射ニューロンを区別した上でパッチクランプ記録を行った。これまで、常同行動モデルでは同種の投射ニューロンにもかかわらず、発火頻度の増減がマトリックスとストリオソームで逆方向にシフトすることを明らかにした。本年度は、この興奮性の違いに関わる電流成分がK電流であり、常同行動モデルの線条体コンパートメント間で逆方向に修飾されていることを見出した。常同行動が起こる時、線条体コンパートメント間の活動バランスが崩れていると考えられるが、ストリオソームは細胞生理学的研究に乏しく、その生理的機序は分かっていなかった。本研究を通じて得られた知見から、線条体コンパートメント間の活動バランスを補正することで増悪した常同行動が改善する可能性が考えられる。線条体コンパートメント特異的に作用するニコチン受容体関連薬を用い、常同行動スコアが変化するか予備的に検討した。
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