研究課題/領域番号 |
16K21696
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
栗延 孟 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (50584512)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高齢者 / 役割 / 仕事 |
研究実績の概要 |
1度退職している高齢者が,再度仕事をしようとする動機付けや,生きがい,またその仕事や生きがいを維持できる要因について明らかにすることを目的として,定年退職後1年以上の無職の期間を経た後に,人材派遣会社に登録して現在仕事をしている高齢者を対象にインタビュー調査を実施した。インタビュー項目は,年齢,家族構成などの基本属性,定年前の仕事の内容,現在の仕事の内容と頻度,仕事を始めたきっかけ,仕事をする理由,仕事をやっていて楽しいこと・辛いこと,生きがいと感じていること,などであり,半構造化面接法を用いて進めた。 調査の結果,仕事をはじめたきっかけは,「家計のため」,「誘われたから」,「健康のため」,という理由が報告された。また,仕事をする理由として「家計のため」,「趣味のためのお小遣い稼ぎ」,「仕事が楽しいから」,「健康のため」などの理由が挙げられた。仕事をはじめたきっかけ,仕事をする理由として「家計のため」と挙げた者は,いずれも病気のため蓄えが減ってしまい,そのために仕事をはじめていた。これらの者は仕事をすることで,「健康」,「生活の張り合い」を感じていた。また,「誘われて」仕事をはじめた者は,ゴルフなどの趣味のための「小遣い稼ぎ」,仕事があることにより「生活にリズムができる」,「お酒を飲まない日ができる」など,「健康」に結びつくという語りがあった。また,定年退職後に身体がなまっていることを自覚して,「健康のため」に仕事をはじめた者は,仕事により「外出」して「健康」や「生活の張り合い」に結びつくという語りがあった。これらの結果から、再就職の目的が経済的理由や仕事自体の充実度だけでなく、健康や生活の張り合いといった高齢者の生活を維持するための役割を担っている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
インタビュー調査により,高齢者の再就職の目的が経済的理由や仕事自体の充実度だけでなく、健康や生活の張り合いといった高齢者の生活を維持するための役割を担っている可能性が示唆された。この結果については,次年度6月の老年社会科学会で発表する予定である。また,仕事をしていない時期は,家を出ないことからの健康面での不安感なども語られていた。本研究は,要介護高齢者を対象に,「役割」を意識したプログラムを作成することが目的としているが,インタビュー調査は,要介護高齢者であっても「役割」が生活の張り合いを得る一助になる可能性を示唆しており,本プログラムを作成する意義を補強するものといえる。 また,仕事・趣味を続ける動機づけとして,①目に見える形の正のフィードバックが仕事や趣味を続ける・楽しむために特に重要であること,②負のフィードバックは極端に動機づけを下げる,ということも見出されている。仕事を続ける動機づけとなる正のフィードバックとして,自身が行った仕事が目に見える形で残されること(ex.仕事で作成した書類をファイリングする,世話をしている野菜などが成長していく過程を見ることができる,工夫した結果が見えるなど),他者から感謝されるなどが具体的な話として挙げられた。また,動機づけを下げる負のフィードバックとして,失敗を過度に恐れる話が挙げられた。この結果は,要介護高齢者を対象としたプログラムを検討していくうえで,考慮するべき事項が明らかになったといえる。 なお,当該年度にアンケートも実施する予定であったが,研究代表者の異動などもあり,実施することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の結果と,高齢者福祉の現場に勤務している介護職の意見等を考慮して,実践プログラムを計画し,実践を行う。研究期間中,別の施設で,2種類のプログラムを実施する予定である。本研究では,対象者は,1.言語的なコミュニケーションが可能であり,2.自立移動が可能(車椅子移動も含む)者であり,認知症の程度が比較的軽度の高齢者と中等度の高齢者を対象とする。 プログラムの内容は,インタビュー調査の結果を考慮して,①正のフィードバックが得られる内容(介護職員からの感謝の言葉,自分の行った実績が目に見えるように残る工夫),②「できなかった」という認知をしないような工夫を行う。また,現場に勤めている介護職と相談し,プログラムの有効性,実現可能性等を議論して計画する。。 これらプログラムは利用者⇔介護職員との関係上の役割を創設することを意図しているが,利用者同士の関係上の役割を創設するために,上記プログラムについてペアやチームを組んで行ったり,特定のレクリエーション(例えば魚釣りゲーム等)にペアなどで役割を割り振るといった内容も考えられる。 このプログラムの効果について,参加者に対して幸福感等についての自記式の質問紙,利用者の周囲の人(家族・介護職員)に対して,利用者についての印象等についての質問紙,また活動の様子の質的な検討などから,プログラムの効果について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度,健康な高齢者を対象にアンケートを実施する予定であったため,郵送料,統計送付との購入を予定していたが,アンケートの実施が遅れたために,購入していない。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度,アンケートの実施(郵送料,印刷費),並びに結果の解析(統計ソフト,入力のアルバイト雇用)等を予定している。
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