研究課題/領域番号 |
16K21700
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
川口 悠介 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 北極環境変動総合研究センター, 研究員 (00554114)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 北極海・チャクチ海台 / 近慣性内部重力波 / エネルギーカスケード / 渦ー波ー乱流の相互作用効果 / 海氷減少 / 地球温暖化 |
研究実績の概要 |
H28年度の本課題の研究実績について以下に記述する。 北極海南西部の季節海氷域(ノースウィンド深海平原・チャクチ海台)において、今後の北極海の海洋混合・水塊形成のカギとなりえる新たな力学機構を発見する事ができた(Kawaguchi et al. 2016)。本研究では、海氷が消失した開放水面域において船舶(海洋地球研究船「みらい」MR14-05)による海洋物理観測を実施し、その結果を詳細に解析した。明らかにした機構の要点を簡潔に述べる。まず、負の相対渦度をもつメソスケールシステム(高気圧性の傾圧渦)に近慣性周期の内部重力波がトラップされる。その際に、渦の内部、特にその下底部において強い乱流混合を引き起こすという現象を直接観測で捉えた。我々の解釈によると、この現象は、海上風を運動エネルギーの起源とした「渦→内部波→乱流」とマルチスケールの物理現象の間でエネルギーが受け渡される”エネルギーカスケード”の実態に相当する。過去にも海洋の渦周辺におけるエネルギーフローの理論研究は存在し、コンセプトは提示されていたが、実際に直接観測からその実態を示した例は極めて珍しい。 「みらい」北極航海で得たこれらの知見は、ウッズホール海洋研究所、韓国・極地研究所(およびインハ大学)との国際連携の枠組みの中で、あらたにIce Tethered Profiler w/ Velocity(以下ITP-V)という自動漂流装置によるデータを用いて再検証されている。ここまでの結果、海氷の消失時期に、この「渦→波→乱流」相互作用がもっとも強くなる傾向が見えてきた。今後は海氷被覆期に、この近慣性内部波から乱流へのエネルギーカスケードの影響について、力学機構に関する理論的な説明とともに、定量的な解析を含めて、さらなる理解を深めていく方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、本年度は過去の「みらい」観測で得たデータの解析を行い、その結果を論文(Kawaguchi et al. 2016)として発表する事ができた。同内容は国際学会などでも発表され、極域海洋コミュニテイだけでなく、他の海域を含めた海洋乱流コミュニテイにも影響を与えたと自負している。これらの点から、H28年度の本課題の進捗は順調であると自己評価する次第である。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度以降に執り行う本研究課題の実施計画について簡潔に述べる。上述の通り、H28年度までの観測データの解析によって北極海の季節海氷域での運動エネルギーの流れ(エネルギーカスケード)の一端が明らかとなった。この結果は、「みらい」が北極海に滞在した2週間の間に得た結果であり、広大な面積を誇り、バラエティーに富んだ物理環境をもつ北極海全域に対して、どれだけ共通した現象であるかはまだ議論の余地が残されている。したがって、今後は、北極海北西部に複数機設置されたITP-Vのデータを解析する事で、北極海の他の海域での本仮説の妥当性・汎用性について議論を進める方針である。また、観測データの解析に加えて、内部波エネルギーの挙動を調査するための診断的な追跡実験(レイトレーシング)を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時には、H28年度「みらい」北極航海に乗船し海洋物理観測を実施する予定であったが、航海計画の進展に伴い、本航海は生物・化学を主観測項目とすることが決定され、研究代表者の研究対象である海洋物理観測に関する項目や時間が減少したため、H28年度北極航海のための観測機器は購入しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度は海洋物理観測をメインとする「みらい」北極航海を予定しているため、H28年度に購入予定だった海洋観測用装備品、観測機器を準備品として購入予定である。
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