本研究はホール効果を用いて金属表面の残留応力を評価する手法を開発することを目的とした。金属のホール効果は半導体のそれと比較して小さいことから産業への活用例は見られなかった。申請者らは特定の合金において理論値を超えるホール係数の応力依存性を定量的に測定したことから、金属表面の非破壊的な応力評価法の実用化のための研究を行った。初年度は理論と実験装置の構築を行った。2年目は熱処理と測定周波数の高周波数化について検討を行った。最終年度は測定周波数のさらなる高周波数化と測定結果の再現性を向上させることに取り組んだ。 本研究の成果をまとめる。1T以上の磁束密度を維持しつつ、交流駆動できる電磁石を設計・製作し、金属のホール係数の応力依存性を評価するための測定系を構築した。これを用いて、特定の非磁性体合金において理論値を超えるホール係数の応力依存性を観測した。その原因は試験体に含まれる応力によって合金に含まれる強磁性体元素の不対電子が現れ、ホール効果に影響を与えているためである。電荷キャリア濃度が応力以外にも影響を受ける可能性を考慮し熱処理の影響について、及び強磁性体元素を含まない金属のホール係数の応力依存性の測定を試みた。これらについては実験装置の性能不足も考えられるが、少なくとも評価した金属においては強磁性体元素を含む合金のホール係数の応力依存性よりそれらの影響はかなり小さいことがわかった。申請時の予定にはなかったが、実機適用を視野にベース電流の高周波化に取り組んだ。表皮効果を利用して金属表面に電流を集中させできるだけ大きなホール電圧を生じさせるためである。ベース電流の周波数は1MHz以上が求められるが、100kHzまで高くすることができた。実機適用に向けて順調に進んでいると考えている。
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