本研究では、山梨県立博物館が所蔵する昭和時代の山梨県内各地の写真資料群についてデジタル化を進め、撮影内容の確認と分析および分類を行うことで写真の資料化を試みた。写真のデジタル化は、ネガフィルムの劣化に対応するとともに、被写情報の活用をはかるための措置である。撮影内容の確認と分析・分類では、被写事象の細部を把握し、情報を抽出して読み解くとともに、それらの情報を自治体誌や民俗報告書、該当地域の居住者からの聞き書きとの照合を行った。 資料群からは、山梨県内の生業が養蚕から果樹に転換していく様子や、都市部の開発、それにともなう民俗の変容を視覚的に確認することができた。また、写真を地域・年代・撮影内容などの条件による再編を行い、生活の推移の様を視覚的・客観的に示すことも可能であった。しかしながら、撮影者の活動範囲や興味の対象によって撮影地域や年代・事象により示せる情報の多寡に差が生じるため、写真による生活誌として示せる地域やテーマが限定されたり、提示できる情報量に偏りが生じたりした。 情報の抽出を行った写真を地域やテーマに沿って再分類し、生活誌や民俗的世界の再構築が可能であるという点においては、写真は博物館が所蔵する実物民俗資料に準じた資料と言っても過言ではない。しかしながら、1点の資料化に必要な時間という点においても実物資料と同等に膨大であり、さらに博物館に集積していく写真の点数の多さは実物資料の比ではない。博物館において写真を実物資料と同等に活用するためには、写真の資料化のための時間の捻出が最も大きな課題と言える。 なお、本研究においてデジタル化した画像や写真の情報を用い、山梨県内の小学校中学年向けの授業「昔のくらし」の単元において、使用可能な写真による生活誌を試作し、教材化を試みた。教材は、2018年~19年にかけて山梨県立博物館による出前授業で使用した。
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