平成30年度は、HPeV-1とHPeV-3で、ヒトiPS細胞より分化した心筋細胞への感染に差異があるかを確認した。心筋細胞の場合は自己拍動が観察されるため分化誘導の確認が容易である。また、ウイルス感染に伴う細胞傷害性の程度は自己拍動の停止を指標とすることで、細胞傷害が培養細胞全体に広がったかどうかを明確に評価することが可能である。心筋細胞の分化誘導実験では、誘導後9日目より自己拍動胚様体が観察され始め、誘導後15日目には培養プレートの各ウェル全体に活発に拍動する胚様体が広がっていた。そこで、誘導後17日目にHPeV-1(A株またはB株)あるいはHPeV-3(C株)を添加し、1時間感染させたのちに培地を交換し、そこから経日的に細胞の拍動を観察した。HPeV-1 A株に感染させた心筋細胞は、感染後1日目(1 dpi)にてそのほとんどが拍動を停止し、HPeV-1 B株に感染させた心筋細胞は5 dpiまでにそのほとんどが拍動を停止した。一方、HPeV-3 C株に感染させた心筋細胞のほとんどが拍動を停止するには7 dpiを要した。異なるヒトiPS細胞株を用いた実験でも同様の結果が得られた。これらの結果は、HPeV-1とHPeV-3は心筋細胞に感染することができるものの、心筋細胞における感染拡大あるいは傷害性において差異があることを示している。細胞傷害を引き起こすのに要する日数が短いことで、個体においては宿主の免疫機能が追い付かず、感染組織におけるダメージが大きくなると考えられるため、このことがHPeV-1心筋炎の起こりやすさにつながっているのかもしれない。
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