研究実績の概要 |
本研究では微生物が生産する高分子量直鎖状β1,3グルカンを対象とする。最近、β1,3グルカンを修飾することで熱可塑性かつ結晶性を有するβ1,3グルカンプロピオネートの作製が報告されたが、結晶化挙動や材料化などに関する報告はいまだ少ない。我々はβ1,3グルカンプロピオネートの結晶化挙動が特異な点に着目した。それは球晶成長過程では遅い結晶化速度を示すが、繊維化過程で非常に速い結晶化速度を示す点である。また、剛直なピラノース環を主鎖骨格として有しているにもかかわらず球晶構造を示すのは非常に珍しい。本研究では、(I)等温結晶化過程で形成される孤立球晶の特定部位観察、および、(II)溶融紡糸過程で発生する配向結晶の形成過程をリアルタイム観察し、これらの結果を比較することでβ1,3グルカンプロピオネートの特異な結晶化現象を解明することを目的とした。 (I)に関しては、球晶構造の特定部位のみを選択的に測定する必要が生じた。このため、放射光施設のμビームX線を使用することにした。また、測定個所を特定するため、X線とほぼ同軸で観察可能な偏光顕微鏡を有するレイアウトの構築を行った。この結果、球晶におけるターゲットの個所にX線を打ち込むことが可能になりつつある。一方、偏光顕微鏡の測定において、サンプルと光軸を完全に垂直配置することが難しかった。現在、これらの再設計を行っている。測定結果から、球晶の中で結晶のねじれの有無などに関する情報が得られた。 (II)に関しては、ダイヤモンド窓を取り付けた特殊ダイを設計・作製し、溶融紡糸過程におけるダイ内部の観察と吐出直後の繊維の観察を行った。この結果、溶融紡糸過程でほぼ結晶化が終了しており、結晶化がどのように進行するかが判明した。また、溶融温度と巻き取り速度を変化させることで、これら2つのパラメータが結晶化度に与える影響についても明らかとなった。
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