前年度までの研究で、アミロイドβオリゴマー「アミロスフェロイド (ASPD)」が脳微小管血管内皮細胞のNa+/K+-ATPase α3サブユニット (NAKα3) に結合し、その後活性化したプロテインキナイーゼC (PKC) によるリン酸化により内皮型一酸化窒素合成酵素 (eNOS) が抑制される機構を明らかにした。最終年度ではNAKα3からPKCまでのシグナル伝達経路の解明に取り組んだ。 NAKα3からPKCまでの経路を各種試薬および阻害薬により検討した結果、過去に報告された各種メカニズムは関与せず、当該経路にはASPD刺激により増加したミトコンドリアでのROS遊離が関与することを申請者は発見した。平行してASPDによるeNOS二量体の乖離作用についても検討し、培養脳微小管血管内皮細胞においてASPD刺激によりeNOSの一量体への乖離が促進されることを発見した。eNOS単量体化はROSにより促進されることから、ミトコンドリアでのROS遊離がeNOS単量化の原因と考えられる。 本研究を通して申請者は「APSDがヒトの脳微小血管に沈着する」「ASPDはヒト脳微小血管内皮の細胞膜NAKα3に結合し、ミトコンドリアROS/PKC経路を介してeNOSをリン酸化、およびミトコンドリアROSを介してeNOSを単量体化し、eNOSを不活性化する」「血管内皮でのASPDによるeNOS不活性化は、血管弛緩能を抑制し、収縮能を増強する」ことを明らかにし、これまで明らかにされていなかった脳アミロイド血管症での血管内皮傷害の原因となる物質の一つを特定し、その毒性と作用機序を解明することに成功した。脳アミロイド血管症には未だ効果的な治療薬が開発されておらず、また本疾患は様々な病気の増悪因子としても働くことから、本研究成果を元に、将来的な治療医薬品の開発に繋がるものと期待する。
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