β-Klothoは、成体マウスの肝臓において小腸から分泌されるFGF15/19のシグナルを媒介し、標的分子である胆汁酸合成経路の律速酵素CYP7A1の遺伝子発現を抑制することで胆汁酸代謝を負に制御する(β-Klotho/FGF15システム)。胎生期では、β-klothoは卵黄嚢、Fgf15は胚において高い発現を認める。両者の機能連関の有無や役割はこれまで明らかになっていないが、β-klotho欠損胚とFgf15欠損胚がともに発育抑制を呈することから、β-Klotho/FGF15システムが胎生期において胚の発育制御に関わる可能性が考えられる。本研究では、胎生期におけるβ-Klotho/FGF15システムの標的分子の同定と、標的分子の機能が胚の発育に与える影響についての解析を行った。まず、網羅的遺伝子発現解析を行い、卵黄嚢においてβ-klotho依存的に発現が変動する遺伝子のリストを作成した。次に、Fgf15欠損卵黄嚢におけるこれらの遺伝子の発現の挙動を確認し、β-Klotho/FGF15システムの制御下にある遺伝子群を同定した。これらの中には、胚の発育に重要であることが知られる2つの栄養素の取込みや代謝に関わる遺伝子が含まれていた。昨年度は、栄養素1とその制御に関わる候補分子1について検討したが、胚に対する影響は観察されなかった。そこで、今年度は候補分子2と栄養素2を中心に解析した。β-klotho欠損胚では栄養素2の代謝に関わる遺伝子の発現が複数変化していたが、卵黄嚢においてもβ-klothoの欠損により栄養素2の蓄積が見られた。これらの結果から、β-Klotho/FGF15システムの破綻によって卵黄嚢に遺伝子発現のみならず代謝物レベルの異常が引き起こされることが示された。
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