研究実績の概要 |
産業組織論の主要テーマである企業間競争と企業の境界に関して, 新たな視点から分析することが本研究の課題である. 今年度は, 目的達成に向けての分析が進み, 成果の取りまとめが進んだ. 森田(研究代表者)はTang(研究分担者)と共同で, 労働市場での企業間競争に資産の企業特殊性および経営者の経営能力を取り入れた理論モデル分析に基づく日本語論文を学術誌に出版し, 英語論文を国際的学術誌に投稿した. 森田は, Ghosh・佐藤と共同で, 製品市場と労働市場の相互連関をLogitモデルを用いて分析する手法を開発し詳細分析に着手した. また, 関連の理論・実証分析に知見が深いM. Armstrong, A. Mukherjee, H. Schneider, T. Kato, P. Kuhn, K. Shaw教授らを招聘して研究内容や今後の進め方に関して意見を伺った. 森田はServátka・Zhang・Dankova・Durinikと共同で, アイデンティティが公平感に与える影響に関する実験結果の分析を進め, 論文を国際的学術誌に投稿するとともに, 企業内昇進構造に関する実験結果の分析を進めた. 森田は石川(研究分担者)・椋と共同で, 製品市場における不完全競争下での平行輸入とアフターマーケットの関連を分析する論文を国際学術誌に投稿, 採択された. さらに森田は, Nguyenと共同で, 海外直接投資と品質を向上させるような技術伝播との関係を理論分析する論文を完成させ, 国際学術誌に投稿した. 神林(研究分担者)は森田と連携しつつ, 日本版Management and Organizational Practice Surveyの実査に向けて, 就職四季報等を利用してワークライフバランス指標と財務データとの関係についての考察を行い, その知見をもとにより詳細な各企業の情報を同時に格納するデータセットを帝国データバンクと協力して作成した. 同時に, 経済産業省企業活動基本調査と厚生労働省賃金構造基本統計調査のマッチングを行い, 上記の指標が企業間賃金格差とどのような関係にあるかを考察した. 都留(研究分担者)は森田と連携し, 競争戦略と人材マネジメントに関して実務家と意見交換する研究会を定期的に開催した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者と研究分担者が協力しつつ, 各自の担当分野において, ほぼ想定通りの成果をあげた. とりわけ, 製品市場と労働市場の相互連関をLogitモデルを用いて分析する手法を開発したことは産業組織論分析における重要な貢献であり, 今後, 均衡・社会厚生に与える影響などの詳細分析を精力的に推進する. また, アイデンティティが企業組織において果たす役割に関する実験手法を用いた分析に関しては, 昨年度の成果を踏まえ, 公平感と企業内昇進構造に関して分析が進んだ. また, 帝国データバンクと協力して作成したワークライフバランス指標を同時に格納するデータセットについては, 分析に向けたデータ化が整った.
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今後の研究の推進方策 |
製品市場と労働市場の相互連関分析に関しては, Logitモデルを用いて, 均衡・社会厚生に与える影響などの詳細分析を推進するとともに, 企業の合併・部分的結合・競争企業間の連携などの分析に応用する. 分析推進にあたっては, Ghoshをニューサウスウェールズ大学から招聘する. また, コーネル大学のWaldman教授などの内部労働市場分析と産業組織論分析に知見の深い専門家を招聘し, 分析のまとめに関する意見を伺う. アイデンティティが企業組織において果たす役割に関する実験分析については, 企業内昇進構造に関する分析を完成させるとともに, 公平感と企業の境界との関連を明示的に取り入れた分析を行う. 分析推進にあたっては, Servátkaをマッコーリー大学から招聘する. さらに, 帝国データバンクと共同して作成したデータセットに関しては分析を推進し、令和3年初頭に予定されている日本版Management and Organizational Practice Surveyの調査票の設計に貢献する. 同時に, 引き続き企業活動基本調査と厚生労働省賃金構造基本統計調査のマッチングデータを用いて, 企業間賃金格差とワークライフバランス施策との関連について考察を加える. この際、クイーンズランド大学経済学部の田中聡史氏を一橋大学経済研究所非常勤研究員として招聘し, 協力を仰ぐことを考慮する.
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次年度使用額の使用計画 |
Ghosh教授を招聘して製品市場と労働市場の相互連関分析を推進する. Hongi Li・Robert Ackerlof各教授を招聘し, 企業組織内における公平感に関する理論分析を行う. アイデンティティが企業組織において果たす役割に関する実験分析については, 公平感と企業の境界との関連を明示的に取り入れた実験を行う. Waldman教授を招聘し, 分析のまとめに関する意見を伺う.
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