研究課題/領域番号 |
16K21742
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
今井 晋 北海道大学, 経済学研究院, 教授
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研究期間 (年度) |
2017 – 2019
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キーワード | 銀行預金 / 構造推定 / 操作変数 |
研究実績の概要 |
1) 日本経済学会の機関誌 現代経済学の潮流 編集者から、本研究の研究成果の論文「操作変数を使わない需要関数の推定法」の掲載の招待があり、昨年度末に論文を提出した。以後、何度かのレフェリー・プロセスを経て、現在こまかい文章上の校正を行っている。今年度掲載される。 2) 昨年度はメルボルン、アテネでの産業組織論の学会で論文“Identification and Estimation of Differentiated Products Model using Market Size and Cost Data”を発表し、特にメルボルンでの発表においては貴重なコメントをいただいた。 従来の需要関数の推定法では、価格や産出量が市場の均衡によって決定される場合は、それに伴う内生性の問題に対処するためには、需要ショックと相関のない操作変数を用いなければならない。しかし、それらの操作変数が本当に需要ショックと無相関であるかを検証することは難しい。本研究では、そのような操作変数を用いない新しい需要関数の推定法を開発した。 本研究では、操作変数の仮定が満たされていないような状況でも、新しい推定法を用いると真のパラメータを推定できることを理論的に証明した。そして、そのような理論的結果は詳細なモンテ・カルロ実験によっても確認された。さらに、本研究では米国の預金データを用いた実証研究を行い、その結果、操作変数法による推定値が非現実的な値をとるような状況においても、本研究の手法を用いると、より現実に即していると思われる推定結果が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Journal of Econometricsでrevise and resubmitであった論文論文“Identification and Estimation of Differentiated Products Model using Market Size and Cost Data”は、昨年度から新たに主要な定理の分析をやり直した。その結果、本研究が提唱する推定手法の妥当性がより少ない仮定の下で成立することが証明でき、しかも昨年度の証明よりもより簡潔に、分かりやすくなった。さらに、昨年度からモンテ・カルロ分析を行ってきたが、より複雑なBLP需要モデルの既存の操作変数を用いたモンテ・カルロ分析がかなり困難であった。また、さらに、米連銀のデータを用いた預金需要関数の推定も、より複雑なBLP需要関数を用いた推定は、以前のより単純なロジット型需要関数の推定より困難であった。しかし、これらの分析は全て終了し、現在は論文の最終校正を行っており、それが終わり次第、レフェリー、そして編集者への手紙を書き、再提出を行う予定である。 現代経済学の潮流への掲載論文の掲載のために最終校正原稿の細かい修正を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
1) 近日中にJournal of Econometricsに再投稿し、編集者からの返事をまつ。 2) 本年度5月に日銀調査部にて本研究の成果を発表し、日本の銀行の預金・貸出データについての情報を得る。 3) 費用データを用いた需要関数のノンパラメトリックな識別、そしてできればそれに基づいた推定法を検討する。ノンパラメトリックな識別に関しては、今まで基礎的なアイデアに関する証明作業は終えているが、それをさらに一般化させる。また、次元の呪いのもとでのノンパラメトリック推定に関しては、最近の機械学習の成果を踏参考にして、さらに検討を続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は米国の詳細な預金・貸出データの取得に関する費用を計上していた。しかし、米国の銀行の貸出データは銀行別にしかなく、米国の各地域での銀行の貸し出しのマーケット・シェアの導出が困難である。よって、昨年度予定していたデータの入手、整備に関する支出を行わなかった。本年度は、以下のデータの入手・整備に関する費用として用いる。まず、日本の銀行の預金・貸出データの取得に関する費用として用いることを検討している。日本の各企業の財務データは、企業の銀行からの借り入れに関しても詳細な情報があることが知られている。しかし、それを全て入手する際に相応な費用が想定される。そして、これらのデータを用いて実証研究を行うためには、銀行のデータと企業財務のデータを合成させたデータを作成しなければならない。そのような複雑なデータ作業のためにリサーチ・アシスタントを短期的に雇用する費用が予想される。リサーチ・アシスタントはそれらの情報を用いて銀行の預金、貸し出し両面に関する実証研究を行う予定である。 また、昨年度はオーストラリア、アテネでの産業組織論の幾つかの海外学会において論文を発表したが、それらの旅費、宿泊費は別の科研予算によって支払われた。本年度は、共同研究者、またその他の産業組織論、計量経済学の専門家の北大への招へい、そして中国四川財経大学での研究会の参加等の国際交流、そして海外での活動は本科研によっげ支払われることになるので、相応の旅費の支出が想定される。
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