研究課題
EGFR遺伝子活性型変異を伴う非小細胞肺癌に対して、2019年の時点で第3世代までのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が承認され、予後も劇的に改善されている。しかし、一度縮小した腫瘍は2年ほどで耐性を示すようになり、完全治癒はいまだ達成されていない。この耐性機序の解明には活性型EGFRの発がんにおける役割を理解することが重要である。我々は、以前の検討より、活性型EGFRによるβ-cateninの4箇所(Y142, Y670, Y716、Y748)のチロシンリン酸化がその活性化に重要であると仮定した。そこで我々は、東北大学大学院歯学研究科・先端再生医学研究センターの犬塚博之准教授との共同研究により、チロシンリン酸化されないCompoundの変異体を用いて、1)4箇所のチロシンリン酸化がβ-cateninの核移行に必要であること、2)チロシンリン酸化によりβ-cateninとβ-TrCPとの結合を阻害され、タンパク分解が遅延すること、3)このタンパク分解経路は、GSK3には依存しないが、APC/AXIN経路には依存していることを示した。さらに、β-cateninの安定性を向上させてマウスでは、腫瘍の大きさが増大し、TKIsにより抵抗性を示すようになった。これらの結果は、活性型EGFRがβ-cateninのチロシン残基をリン酸化することによってその安定性を向上させ、腫瘍形成のみならず、TKIsに対する耐性発症機序にも関与していることを示唆するものであり、今後の新規治療薬を開発するうえで重要であると考える。
2: おおむね順調に進展している
今年度(平成30年度)では、交付申請書に記載した当該年度の実験計画をほぼ終了し、活性型EGFRによるβ-cateninのリン酸化の役割を解明できたと考えている。東北大学大学院の犬塚博之准教授との共同研究も大変順調であった。
2年度目は、当初計画通り、β-cateninの活性型EGFRによるチロシンリン酸化がβ-catenin依存性の転写活性に及ぼす影響について検討する。具体的には、まずTBX5の転写活性の上昇がβ-cateninのチロシンリン酸化によるものか検討するために、活性型EGFRとそれぞれのβ-cateninチロシン変異体を共発現し、ルシフェラーゼ活性を調べる。次に、チロシンリン酸化によるβ-cateninとそれぞれの転写因子との結合能への影響について検討する。さらに、β-cateninのチロシンリン酸化が、すでに報告されているTBX5の標的遺伝子であるBCL2L1やBIRC5の発現の誘導に関与するかどうかを調べる。さらに、活性型EGFRによるチロシンリン酸化β-cateninによる腫瘍形成に重要なTBX5の標的遺伝子を系統的に探索するために、活性型EGFR(LR-TM)をもつ肺癌細胞株であるH1975を用い、最も活性化に必要なチロシン残基をフェニルアラニン残基に置換したノックイン細胞を作成する。野生型H1975細胞と、β-cateninチロシン変異H1975細胞を用いて、RNAシークエンスおよび2種類の抗体(TBX5およびH3K27ac)を用いたクロマチン免疫沈降シークエンス(ChIP-Seq)を行う。これら3つのデータを比較検討することで、β-cateninのチロシンリン酸化によって活性能の上昇したTBX5下流の標的遺伝子を同定する。標的遺伝子は他の活性型EGFRをもつ肺癌細胞株で検証する。
β-cateninの細胞内局在とその細胞周期および細胞死の関連について、共焦点顕微鏡およびフローサイトメトリーを用いて精査予定であったが、ともに故障によって初年度に計画していた実験が次年度に繰り越しになった。従って、共焦点顕微鏡およびフローサイトメトリーを用いた実験に充てる予定である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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