研究課題
EGFR遺伝子活性型変異を伴う非小細胞肺癌に対して、現在までに第3世代までのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が承認され、予後も劇的に改善されている。しかし、一度縮小した腫瘍は2年ほどで耐性を示すようになり、完全治癒はいまだ達成されていない。この耐性機序の解明には活性型EGFRの発がんにおける役割を理解することが重要である。我々は、活性型EGFRによる肺癌形成において、活性型EGFRがβ-cateninの4箇所(Y142, Y670, Y716、Y748)のチロシンリン残基を直接リン酸化し、β-cateninのタンパク安定化に寄与することを示したが、β-cateninの別のチロシン残基であるY333がEGFR-TKI阻害剤存在下では別のチロシンキナーゼであるSRCによってリン酸化されることを見出した。令和2年度には、SRCはシュードキナーゼであるROR1によって活性化されること、またY333のリン酸化部位の変異体を用いて、β-cateninはY333のリン酸化によってTBX5と結合し、抗アポトーシスたんぱくであるBCL-XLを増強させ、Drug-Tolerant Persiser (DTP)細胞の生存に寄与していること、さらにBCL-XLのノックアウトマウスではTKIに対する耐性がおこらないことを見出した。この結果は、BCL-XLの活性を制御することによってDTP細胞の出現を抑制し、EGFR-TKI阻害剤耐性を防ぐことができる可能性を示した。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度~令和2年度の3年間で、交付申請書に記載した実験計画をほぼ終了し、活性型EGFR及びSRCによるβ-cateninのリン酸化の役割を解明し、この経路ををターゲットとする治療戦略を提示することができたと考えている。現在実験結果をまとめ論文投稿中である。
本研究では、活性化EGFRによる肺がん形成、TKIに対する耐性獲得のメカニズム双方にβ-cateninのチロシンリン酸化が重要であることを見出した。特に、TKI存在下、非存在下ではリン酸化部位とその責任キナーゼが異なっていること、TKI存在下ではSRCによってY333がリン酸化され、その結果転写因子であるTBX5を介してBCL-XLの発現変化誘導し、DTP細胞の出現をサポートすることがわかった。さらに、BCL-XLを抑制することによってDTP細胞の出現を抑制し、EGFR-TKIであるオシメルチニブによる耐性の出現を回避できることも明らかになった。現在これらの結果をまとめて投稿中である。
上記で述べたように、本研究で提案した実験計画はほぼ終了し、現在これらの結果をまとめて投稿中である。論文の追加実験を要求された場合に備え、一年間の研究期間の延長が承認されている。
すべて 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 4件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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