研究課題
Foxp3陽性制御性T細胞(regulatory T cells ; Treg)は、免疫応答のブレーキ役、調節役として機能する。炎症の行き過ぎに起因する様々な難治性疾患に対する新規治療法の一つとして、制御性T細胞の持つこの免疫抑制能を活用する事が期待されているが、それを実現する為には、この細胞による免疫抑制の基本的な動作メカニズムを詳細に解明する必要がある。制御性T細胞による免疫抑制において、抗原受容体(T細胞受容体)による抗原認識と受容体下流のシグナル経路の活性化は非常に重要な役割を果たすが、抗原受容体の持つ特異性や、抗原受容体を介した抗原提示細胞との相互作用がどのように免疫抑制の本態と関わっているかについては判然としていない。この疑問を明らかにするために、マウス個体における炎症モデルを用い、制御性T細胞の抗原受容体に改変を加える事でどのような影響が出るのかにつき検討を進めている。実験に必要な複数系統の遺伝子改変マウスの米国施設から国内施設への移送・清浄化については着実に進捗している。ウィルスベクターを用いたマウスT細胞受容体の改変と改変T細胞の移入を通しT細胞機能を評価する事を試みている。
3: やや遅れている
研究遂行に必要な複数系統の遺伝子改変マウスの国内動物実験施設への搬入を進めた。胚作製と胚移植の過程で一部遅延を生じたが、徐々に回復し、現時点では安定したマウスコロニーが得られつつある。実験には複数の系統のマウスが必要であり、搬入の完了していないマウス系統については引き続き搬入作業を進めてゆく。培養T細胞株や初代培養T細胞を用いた抗原受容体改変の検討は引き続き行っている。ウィルスベクターを用いた受容体発現や受容体の持つ抗原結合特異性の確保については最適化が進んだが、他の強制発現たんぱくの毒性や受容体シグナルの不安定性などの問題を完全に克服しきれていない。発現ベクターに若干の修正を加える事でこれらの問題は克服可能であると考えており、今後速やかにこれらの最適化を進め、マウス個体を用いた解析に進む事を計画している。
ウィルスベクターの最適化作業を速やかに進め、改変T細胞の生体外および生体内における機能評価の実験を逐次開始したい。マウス個体を用いた評価については、第一段階としてリンパ球欠損マウスへの細胞移入実験を計画しており、この実験を通して、制御性T細胞が抗原受容体から受けるシグナルの重要性や、改変T細胞の生体内でのふるまいについての大まかな理解を得たい。その後、細胞移入を必要としない実験系での検討に移行する予定である。今後の実験に必要となるモノクローナル抗体の作製、新たな抗原受容体改変マウスの作製についても作業を進めており、多角的検証に繋げたい。
動物実験施設へのマウスの搬入が想定より遅延した事、生体外での培養細胞を用いた検討に時間を費やしている事により、最も費用を必要とするマウス個体解析の実験が十分に進められていない。実験の進捗に伴い、必要な消耗品費用は増加するうえ、解析用機器類購入や新たなマウス作製の為の費用、人件費なども増加する。繰り越した資金は、これら諸経費に有効に活用し、研究の加速度的な進捗を促す。
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Inflammatory bowel disease
巻: 25 ページ: 1019-1027
10.1093/ibd/izy395