研究課題
Foxp3陽性制御性T細胞(regulatory T cells ; Treg)は、免疫応答の調節役として機能する。制御性T細胞の持つこの免疫抑制能を炎症性疾患治療に活用すべく研究を進めている。特に、制御性T細胞上に発現する抗原受容体(T細胞受容体)と受容体下流のシグナル伝達分子の役割を知り、この知見を元に最適な遺伝子改変を導入する事を試みている。令和2年度は、ウィルスベクターを用いてマウス由来T細胞株やマウス由来制御性T細胞(初代培養細胞)に遺伝子改変を加え、改変受容体の最適条件について検討を行った。リンパ球欠損マウスへの改変制御性T細胞の移入も行い、免疫抑制能の評価も行った。エフェクターT細胞の機能発揮に最適化された改変抗原受容体は制御性T細胞の機能発揮には不十分である事が分かり、受容体の改良を試みた。このように改良された抗原受容体を持つ制御性T細胞が生体内でどのようにふるまうかの評価が不十分であり引き続き遺伝子改変マウスを用いた検討を進める。
3: やや遅れている
平成30年度から段階的に複数系統の遺伝子改変マウスの国内動物実験施設への搬入を進めた。清浄化・搬入作業に一定の時間を要したため、その間に培養T細胞株や初代培養T細胞を用い、ウィルスベクターを用いた遺伝子導入の最適化や、制御性T細胞の生存と機能に最適な改変抗原受容体の選定を進めた。遺伝子改変マウスのコロニー樹立後は、マウス生体に遺伝子改変制御性T細胞を移入し、これらの細胞の特性の理解に努めている。改変制御性T細胞の生体外と生体内におけるふるまいに大きな乖離は無いものの、非制御性T細胞(CD4やCD8陽性のエフェクターT細胞)において機能するよう最適化された改変受容体であっても制御性T細胞に導入すると機能しない事が多く、この原因について検討したところ、この機能低下は抗原認識部位(あるいは認識抗原の違い)に起因するものではなく、改変受容体のシグナル伝達の特性に起因するものである事が分かってきた。生体内で安定して機能する改変制御性T細胞を取得すべく受容体設計にさらなる修正を加え適宜検討を行っている。
現在行っているリンパ球欠損マウスへの細胞移入実験を引き続き行い、制御性T細胞において安定して機能する改変抗原受容体を取得する。受容体下流のシグナル伝達分子の最適な組み合わせについても検討を行っておりこれについても検討を継続する。いくつかの自己抗原を認識するT細胞受容体のクローニングも進めており、改変抗原受容体や自己抗原認識T細胞受容体を誘導的に発現するマウスの作製も進めている。このようなマウスが樹立できれば細胞移入に依存しないより生理的な条件下での検討が可能になる。改変抗原受容体や自己抗原認識T細胞受容体を発現する改変制御性T細胞の機能的特性と生体内での分布、遺伝子発現の特性の関連について調べるために組織ごとの遺伝子発現の網羅的解析を行う。
研究計画そのものは当初の計画の通りに着実に進めているが、遂行に若干の遅れがあり、可能な限り生理的な状況下に近い形で遺伝子改変制御性T細胞の特性を評価する事ができていない。繰り越した研究資金を有効に用い、生体移入実験やタモキシフェン誘導型の抗原受容体発現マウスの作製などを当初の計画通りに進め、新規知見の集積に努めたい。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 2件)
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