あるクラスの力学系(区分的線形写像を含む区分的1次分数写像)の真軌道計算に関わる以下の3点を目的として研究を行った.1. 真軌道計算法が適用できる力学系のクラスを拡大する.2. 真軌道シミュレーションを用いた非線形現象の解析を行う.3. 真軌道を使った擬似乱数生成法に対して強固な数学的基盤をあたえる.前年度に3の研究は完了している.最終年度にあたる本年度は,海外研究者との共同研究により,2と1の研究が進展した. 2に関しては,Lagariasらによって提案された2次元区分的線形保測写像を対象に,真軌道シミュレーションを用いた解析を行った.特に,記号力学に基づく曲線群を使って,パラメータ空間に存在する階層的な構造を明らかにした.これによって,例えば,任意のパラメータからえられる記号力学を,軌道を生成することなく,いくらでもよい精度で予測することが可能となる.この成果については,海外研究者との共著論文にまとめ,現在出版準備中である. さらに,既存のユークリッドアルゴリズムと比べて,性能はほぼ劣らないが理論的に性質を解析しやすいことが期待できる新しいユークリッドアルゴリズムを構成した.現在,対応する力学系の真軌道シミュレーションを活用して,アルゴリズムの統計的性質の解析を行っており,今後も海外研究者と共同して研究を進める予定である. 1に関しては,真軌道生成法を拡張し,実代数的数を係数にもつ区分的1次分数写像にも適用可能にした.特に,ベータ変換の真軌道生成を行い,その有効性を確認した.
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