本プロジェクトの最終年度においては、渡航先であるドイツのミュンヘン大学医学部附属「医学の倫理・歴史・理論学研究所」の所長ゲオルク・マルクマン教授の指導の元で、平成29年度に実施した「ドイツの赤ちゃんポストと関連諸問題における出自を知る権利の扱いに関する研究」についての国際共同研究の成果の取りまとめを行った。その結果として、在籍先のミュンヘン大学および国際学会で既に発表していた本テーマへの様々なアプローチの試みを本プロジェクトの枠内でさらに展開させ、総説にまとめることができた。 赤ちゃんポスト問題(およびそれに関連する匿名出産や内密出産の問題)について、ドイツにおける議論にみられる様々な論拠の分析を発端に、本問題の倫理学上の扱いにおける根本的な問題点を明らかにした。それを踏まえて、倫理学では赤ちゃんポスト問題をどう論じ得るかを検討するとともに、学際的なアプローチの必要性を明確にした。 また、赤ちゃんポスト問題と深く結びついている「出自を知る権利」が、本議論における最も影響力のある論拠としてどのように浮上したのかについての分析も行った。とりわけ、「出自を知る権利」の赤ちゃんポスト議論における役割と、非配偶者間人工授精(AID)をめぐる議論における「出自を知る権利」の扱いを比較し、「出自を知る権利」の本質についての検討を行い、これまで日独両国の当該議論で十分に論じられていない重要な要素として提示した。以上の成果は、令和2年度内に学術書として公開する予定である。
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