最終年度は、2022年7~8月および2023年2~3月に本科研費を用いて、ドイツ・フランスでの調査を実施した。主に空襲・戦災に関わる史跡や歴史展示ついての調査となった。ドイツ・ミュンヒェンでは国立図書館と市立文書館での資料調査を実施した。コロナ禍の余波もあり、予約制度が厳格化されており、資料調査へのアクセスがやや困難だった面もあるが、戦後ドイツにおける空襲記憶の新形態について調査を終えた。 以上の成果は今年度中に書籍所収論文となって出版される予定である。具体的には、ミュンヒェン郊外のギルヒングの記念碑調査とその設立者へのインタビューを用いた論稿となる予定である。そのなかでは、記念碑が「被害」だけに留まらず、「被害のなかの加害性」についても想起できるような工夫がなされてきたことが明らかになった。また記念碑を製作する「個人」にも着目することで、それぞれが経験してきた歴史的な文脈や経緯なども重要な要素であることが明らかとなった。 本科研費における研究では全体を通じて、本研究は戦後ドイツの市民社会と想起文化の有り様について検討・考察するものとなった。そこには1950年代後半の市民運動、1968年の学生運動とその世代のその後の活動、さらには1980年代の反原発運動なども絡み合いながら、第二次世界大戦の空襲被害という戦災についても記録・保存されていく様子が見てとれた。これが本研究の成果である。 ただし、フィールドワークが重要となる本研究にとって、コロナ禍の影響は大きなものであり、いくつかの点で研究が不十分に終わったことが悔やまれる。
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