今年度は、新型コロナ感染症の拡大によってここ数年難しかった研究活動(特に国内外の資料所蔵機関・研究機関を訪問しての資料収集・分析)が、一部制限がありながらも研究期間の最終段階に可能になったことによって、最終年度の研究成果のとりまとめ作業をある程度進めることができた。 具体的には、以下の研究について論文としてまとめており、完成次第、学術雑誌に投稿する予定としている。 1、トマス・マコーリーが「ノアの洪水の中で「火事だ」と叫んでいる」と評し、自由を謳歌している19世紀中葉のイギリスにおいて自由が喪失されつつあると述べているものとして批判したJ・S・ミル『自由論』をめぐる知的コンテクストを人文情報学的手法も援用しながら分析した。 2、ジェイムズ・ミルのさまざまな著作の語彙の頻度分析をおこなうことで、古典古代、スコットランド啓蒙、功利主義など、彼が影響を受けていた様々な思潮が彼の思想の中でどのような意味をもっていたかを分析し、ジェイムズ・ミルのスコットランド時代とロンドン時代(さらにはベンサムとの邂逅前後)という通時的な変化の中での連続性と統一性を明らかにすることを試みた。 3、ジェイムズ・ミルおよびジョージ・グロートの議会改革に関する言説を、ウィッグ思想家の言説と比較することによって、哲学的急進派の政治論の共時的な位置関係を分析するとともに、彼らが共有していた言説空間の特徴を明らかにすることを試みた。
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