ロシアによるウクライナ軍事侵攻が長期化し、調査対象者たちの創作活動への影響も調査することにしたが、すぐに結果が出るような課題ではなくとても重い出来事であるため、今後も調査を継続していく方向に切り替えた。9月末にはベオグラードで対面開催された国際学会「From Underground to Actionism: Russian Context」に出席し、「ニューヨークという空間とソ連非公式芸術」という題で1970年代末から1980年代初頭のパフォーマンスについて研究発表を行った(ロシア語発表)。研究課題と現在のロシア・ウクライナ情勢の両方について議論できる場であったと同時に、動員騒動に始まるロシア国内状況の悪化による様々な影響をリアルタイムで体感できる貴重な機会となった。またロシア文化研究分野の第一人者たちが多く集まり、特に欧州の研究者たちと新たな人脈を築くことができ、今後の研究発展の足掛かりを得ることができた。 また研究対象の芸術家たちと創作や時代が関連する国内の美術展「アンディ・ウォーホル・キョウト」「すべて未知の世界へ:GUTAI 分化と統合」などにも足を運び、地域を超えた同時代的な影響関係を検証する材料を得た。 このほか3月にはニューヨークで研究対象者たちがコロナ禍とロシアの軍事侵攻をどのように経験し活動を継続しているか、亡命者たちのコミュニティの現状はどのような様子か調査を実施した。中心的な研究対象であったKomar&Melamidの大回顧展「A Lesson in History」(Zimmerli美術館)でも作品を鑑賞し、Melamid氏には聞き取り調査も行った。また現地で長年にわたり亡命ロシアコミュニティと表現活動を牽引してきたA.Genis氏からは、現状理解のための様々な情報を得ることができた。
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