研究課題
本研究課題における最終年度の研究は新型コロナウイルス感染症の世界的な流行の中で、極限まで限定された状況に大きな改善がみられないまま、研究を遂行しなければならなかったため、当初の計画を大幅に変更して遂行せざるを得なかった。とりわけ、海外の共同研究者であるロンドン大学SOASのコンタディーニ教授との共同研究においては、共同して写本調査を実施する目処が立たず、コロナ禍以前に収集済みの調査資料をもとに各自で研究を進めるほかなかったこと、研究の成果を国際的に公表するための国際シンポジウムの開催、および博物館・美術館と提携した特別展の開催などを断念せざるを得ず、本来の国際共同研究が目指すべき研究のかたちからは大きく外れてしまったことは悔やまれる。このような形で国際研究の枠組みを作るチャンスが失われたことは大きな損失ではあるが、日本の研究者が海外に拠点を持って研究を遂行する足がかりを築くことは最低限できたと考えられ、本研究課題で成し遂げた国際共同研究の関係性を今後も維持していくことが最優先となろう。本研究課題においては、イスラーム美術における「模倣の伝統」をまずは写本絵画から解き明かすことからはじめ、絵画表現が模倣の伝統をどの程度基軸にして発展したものなのか、画工による表現の変化が模倣の伝統の中でどの程度作用し、いかに全体の変容を促すものとなっていくのかについて、膨大な作例をデータ化して詳細な解明を試みた。また、絵画制作の現場(工房)での徒弟関係やパトロンとの関係、工房内での職人たちの交流などに視野を広げて、特定の表現が絵画に限定されずに陶器やタイルなどに波及し、イスラーム美術全体の中で具象表現に模倣の伝統が存在することを確認するに至っている。さらに中世・近世にかけてヨーロッパで収集されたイスラーム美術コレクションが西洋での新たな模倣の伝統を生み出していく過程の一端を発見するに至った。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件)
「巨人の場(トポス)」古代オリエント・ユダヤ・イスラーム・ヨーロッパ文化圏における巨人表象の変遷
巻: 1 ページ: 83-114
Rediscovering Objects from Islamic Lands in Enlightenment Europe, Studies in Art Historiography
巻: 1 ページ: 23-54
Le periples de Kalila et Dimna. Quand les fables voyagent dans la litterature et les arts du monde islamique
巻: 1 ページ: 95-129
Ariosto and the Arabs: Contexts of the Orlando Furioso
巻: 1 ページ: 265-311