垂直構造を巡る諸問題は、従来から競争政策上は重要な論点であったが、いわゆるシカゴ学派を中心とし、効率性を改善するという観点からの垂直的関係の理解が中心となっているため、反競争効果の可能性も考慮した上で垂直合併や種々の企業戦略を多角的に評価するという分析視点の一層の充実が世界的に求められている。 本研究課題は、垂直合併を中心として、競争政策において世界的に重要性が増している垂直的関係について実証的かつ理論的な観点からの検討を行うことを目的としている。最終年度である平成30年度においては、まず、米国炭酸水飲料産業における垂直合併の事例に焦点を当てて実証的な分析を行ってきたテーマについて、構造的な垂直関係のモデルに基づき、垂直的統合の度合いを示す指数と、消費者市場段階での価格競争の硬直化を示す指数について、それぞれの暫定的推定値を得ることが出来た。その結果としては、垂直合併に伴う効率性上昇効果のみならず、下流価格の硬直化に伴う非効率性効果も同時に生じていることが示唆される。 また同時に、本研究においては、一見、垂直的関係とは異なる関係に見える、両面市場におけるプラットフォームやクレジットカード産業の構造は、実は、スタンダードな垂直的関係のモデルを適切に応用することで対応できることが次第に明らかにされてきたことから、プラットフォームとその参加企業間での取引交渉を明示的にするモデルや、クレジットカードにおけるポイント還元の厚生的評価に関するテーマにも取り組み、前者においては、プラットフォームの交渉力が強い方が消費者の観点からは望ましいという結果が、また後者においては、ポイント制の存在は、実質的な価格のタームで考えると、かえって価格が上昇するという意味で、消費者の観点からは望ましくないという結果を暫定的に得ることが出来たが、これらの結果は、競争政策上への示唆を有するものと言える。
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