最終年度は、2018年の相続法改正により配偶者の相続法における地位がどのような変化を遂げたかという問題を、とくに配偶者の遺留分法上の地位に着目して検討した。 比較の対象として、2015年に相続法改正を遂げたオーストリア相続法における配偶者の地位について考察を加えた。オーストリア相続法では、特別の遺留分と呼ばれる介護遺贈の制度が導入され、被相続人の介護を行った者は、相続法の枠内での清算により介護給付の対価を得ることができるようになった。ここで、対価を得ることができる者の範囲には、被相続人の配偶者の他に、内縁配偶者も含まれているという点に着目し、配偶者と内縁配偶者が対価を得ることのできる者とされている背景にはどのような考えがあるのかを検討した。その結果、オーストリア相続法においては、法律上の配偶者であるということを理由として画一的な額の遺留分のみを請求できるとみるべきではなく、実際の寄与に応じた額の遺留分を請求できるようにするべきであるとの考えがあり、また、必ずしも法律上の配偶者でなくても被相続人に対する実際の寄与が認められれば相続法の枠内でそれへの対価が得られるべきとみられていることを明らかにした。オーストリア相続法と比較してみた場合には、日本の相続法改正後の遺留分法における配偶者の地位は、画一的であるという評価ができるとの見解を示し、成果を論文として公表した。 研究期間全体を通しては、日本の2018年相続法改正前後の議論を、スイスにおいて進行中である相続法改正法案の作成過程の議論、近年なされたドイツおよびオーストリアの相続法改正と比較することにより、日本における相続法改正の特徴と問題を客観的に分析した。
|