情報プライバシー権の理論的状況は,米欧が先行しており,米欧の理論対立を背景に日本における理論状況の再検証が必要となっている。そこで,本研究は,個人の「自由」を基軸とするアメリカと,人間の「尊厳」を基盤におくヨーロッパとの間の情報プライバシー権の基礎理論の差異がどのように個々の政策に衝突しているかを考察し,政策の融合に向けた研究を行ってきた。 本研究期間中に,EU一般データ保護規則(GDPR)が適用開始となり,それがアメリカを含む第三国に大きな影響力を有することになった。プライバシー権の研究についてアメリカとヨーロッパの影響力の関係に大きな変更をもたらしたため,研究の主要な関心はGDPRのアメリカへの影響,そしてAIをはじめとするデータ政策に関する米欧の異同を明らかにした。 特にAIや顔認証等の新たな技術がもたらしたプライバシーと個人データ保護への脅威について,米欧では異なるアプローチがとられたことについても理解を深めていった。GDPRの具体的な運用については,プロファイリングをめぐるアルゴリズムの透明性や人間介入の権利について米欧では依然として距離がみられる。 これらの米欧におけるプライバシーをめぐる衝突から,いかにしてグロバールなレベルでの合意を調達しうるかという点について,個人データの取扱いに関する人間中心の原則を一つの指針として考察していった。この切り口の研究成果については英語論文として近く公表予定である。
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