本研究は、著作物の「類似性」に関して、わが国はもちろんのこと、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランスを中心とする諸外国における議論および裁判例を網羅的に分析した上で、これらを横断的に比較法研究するものであった。具体的には、わが国における明治以降の裁判例を収集して、類似性に関する考え方や判断方法、その変遷を分析するほか、英米独仏を中心とする諸外国に関しては、対象国に出張して、資料収集とインタビューを行い、これに横断的な検討を加えるものである。2020年度は、2019年度にミュンヘン大学に客員研究員として滞在していた間に収集した資料や調査した成果を総合的にまとめた上で、これに理論的・実務的観点から検討を加えた。その結果、従来の裁判例においては、時代や地域による類似性判断の傾向が見られる一方、理論的観点のみからは説明がつかないように思われる点も発見され、現実の裁判実務において裁判官による判断に影響を与える可能性のある要素についても様々な考察を行った。その成果の一部として、特に日本における著作物の「類似性」を取り上げて、さしあたり、ビジュアルアートに注目しつつ、従来の裁判例を網羅的に検討するとともに、理論的・実務的観点から分析した書籍の出版を準備しており、2021年6月には『〈ケース研究〉著作物の類似性判断』(勁草書房)として出版される見込みである。今後は、別のジャンルについても書籍をまとめるとともに、ドイツやアメリカ、スイスやポーランドといった諸外国との比較に関する研究成果も発表していきたい。
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