本研究は、「学力」の低迷が継続的な課題とされるオーストラリア先住民コミュニティにおいて、リテラシーやニューメラシー等の「汎用的能力(general capabilities)」の育成がどのように図られ、それが同地の保護者・子ども達にどのような影響を与えているのかを明らかにすることを目的とする。汎用的能力は、グローバル社会の進展に伴い、各国でナショナル・カリキュラムに組み込まれ、すべての児童生徒を対象にその育成が求められているが、異文化理解や倫理的態度等、都市部や、いわゆる西洋社会で必要とされてきた特定の知識・理解を前提とするものも含まれる。そのため、本研究では、遠隔地の学校で校長や教員に対し聞き取り調査を行い、各学校における汎用的能力の育成を重視したカリキュラムの開発・運営の実態を明らかにするとともに、遠隔地先住民コミュニティに滞在し、関係者や保護者への聞き取り調査を行うことで、かれらの教育観・学校観について検討してきた。これにより、最終的には、この新たな学力観に基づく教育の推進が、先住民・非先住民間、都市部・遠隔地間の不平等の是正/(再)生産にどのように関係しているのかを検討できればと考えた。 本調査期間中、2018年8月から2019年9月の1年間は、オーストラリア・ジェームスクック大学に在籍し、調査研究を進めた。特に後半は、主たるフィールドであるトレス海峡島嶼地域木曜島に滞在し、地域団体による子育て・放課後支援に関わりつつ、地域住民とのネットワーク構築および関係資料・情報の収集を行なった。帰国後は、主として研究成果の公開・共有に努めるとともに、渡航が可能になった2023年3月には、同地をあらためて訪問し、追加調査(聞き取り調査)を行なった。本研究の成果について、2022年度は、『オセアニア教育研究』『異文化間教育(印刷中)』等で報告した。
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