商業的な成功を目指すイノベーションは、研究開発の初期段階から事業機会の開拓(アントレプレナーシップ)と結びつく必要がある。研究開発、生産、市場の間で知識スピルオーバーを促進する媒介機関は産業のイノベーションシステムの効率性を高める。こうした知見に基づき、本研究は地域イノベーションシステムにおける媒介機関の役割を三カ国にわたって検証した。日本においては、地域レベルの農業イノベーションシステムにおいて、技術開発と市場構造がどのように結びついているかを製品レベル(果実、野菜など)で計量経済学的に検証した。パネルデータの分析結果から、産業集積の変化に応じて新品種開発パターンが変化することが明らかとなった。これは、自治体の普及指導員やJAの営農指導員が媒介となり、市場情報が研究機関(農業試験場)に伝達され、ニーズ変化に対応する形で研究計画が策定されていることを示唆している。研究成果はFukugawa(2019 Scientometrics)として公刊された。インドネシアにおいては、ASEAN経済研究所(ERIA)で共同研究を行い、国・地域レベルでの農業イノベーションシステムの全体像を明らかにした。分析結果から、それぞれのレベルで異なる媒介機関(公的な普及機関や村レベルの協同組合)が存在すること、公的セクターと多国籍企業が独立に研究開発と市場とのフィードバックループを形成していることが示された。研究成果はFukugawa et al.(2018 ERIA Discussion Paper)として公刊された。台湾においては、研究機関(TARI)、普及機関(DARES、ATRI)、教育機関(NTIFO)、業界団体(FFTC)、協同組合に聞き取り調査を行い、国レベルの農業イノベーションシステム全体像の把握と、異なる媒介機関の分業構造の解明に現在取り組んでいる。
|