本研究課題は労働市場における買い手独占力を測定することを目的としたものである。 2019年度には、最低賃金が雇用に与えた影響に関しての実証研究を進めた。2007年の最低賃金法の改正を受けて、主として都市部では最低賃金が上昇し、地方部では最低賃金がそれほど上昇しなかったという政策変動が生じた。これを自然実験に用いて、高卒以下の労働者の賃金や雇用にどのような影響があったかを、賃金構造基本統計調査並びに労働力調査を用いて分析した。 2007年の最低賃金法の改正は最低賃金労働者の標準的な月収と生活保護額の逆転現象を解消することを目的としたものであったが、分析の結果2006年時点の逆転幅と2007年から2016年の間には確かに正の相関関係があり、政府が目標通りに最低賃金を引き上げたことが明らかになった。また主として都市部において逆転幅が大きかったため、最低賃金の上昇幅は都市部で大きかったことも明らかになった。この最低賃金の引き上げは、低賃金労働者の賃金の底上げに貢献したことを確認した。その一方で雇用に対する影響は性別・年齢ごとに異なっており、若年男性労働者の雇用に対して負の影響を与えたことが明らかになった。その一方で中高年男性や女性に関しては雇用に対する影響が明確には見られないことも明らかになった。 この分析結果は、国立国会図書館と東京大学政策評価研究教育センターが共催したエビデンスに基づく政策形成に関するワークショップで発表した。この際には海外共同研究者を招待して、米国と日本の最低賃金研究をとてもに国会議員など政策担当者に発表した。
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