時間を通じた戦略的相互依存関係が存在する下での戦略的インフラ整備をキーワードに、以下の2つのトピックについて理論モデルを構築し、分析を進めてきた。 (1)産業内貿易において貿易費用が存在する2国モデルの枠組みで、貿易費用を削減するインフラ整備を各国政府が行う状況を動学ゲームとして定式化し、均衡動学経路および長期均衡の性質について検討した。特に、均衡動学経路上でインフラ資本がどのように蓄積していき、長期的にどのような水準になるのか、またそれに伴い2国間の貿易パターンがどのように特徴づけられるのかを理論的に検討した。 (2)少数の寡占企業と多数の独占的競争企業が併存する市場経済モデルを構築し、寡占企業による費用削減投資が公共財としての性質を持つ状況における、寡占企業の投資行動を動学ゲームとして分析した。将来にわたる投資の時間経路を初期時点で決定するオープン・ループ戦略と、公共財ストックの水準に依存して投資水準を適応させるフィードバック戦略の2つのタイプの投資戦略を想定し、それぞれの戦略の下での均衡動学経路および長期均衡を導出した。また、寡占企業数の変化が均衡に与える影響を検討した。 以上の研究テーマについて、2017年8月から2018年8月までカナダのMcGill大学に滞在し共同研究者であるLong教授と研究を行ったが、コロナ禍のため2020年以降はLong教授と電子メールを通じて随時連絡を取り合い、分析手法や分析結果についての相談を随時行ってきた。しかしながら、Long教授が2022年1月に逝去したため、各研究テーマについて研究代表者が単独で研究の取りまとめを行うことになった。研究テーマ(1)については企業の異質性を考慮に入れた新たなモデルを構築して分析した結果を学会で報告した。研究テーマ(2)についてはLong教授の追悼ワークショップで報告を行い、論文の最終稿を完成させ学術誌Dynamic Games and Applicationsに投稿した。
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