研究実績の概要 |
本研究では、無縁者(交流がある親類や相続人がいない者)が増加を背景として、無縁社会における財産承継問題への対応を検討するため、主として、米国において研究を行った。通算1年以上、米国コーネル大学に滞在し、相続等に加えて、持続的代理権、死後事務委任、保険、信託等、米国における財産管理および承継に関わる法制度及び法理論を一通り確認した後、それらの中から、日本の現状に鑑みて参照すべき法制度等について調査・研究を深めた。 特に、次の二つの日本にはない法分野に着目した。一つは、日本法における物権、相続、保険、信託等にまたがる"Wills, Estates and Trusts"ないし"Family Property Law"という分野であり、生前の財産管理と死後の財産承継を連続線上にとらえる米国の法の発想から大きな示唆を得た。いま一つは、社会法、民事法、刑事法、医事法から税法まで、高齢者に関わる法的問題を扱う"Elder Law"という分野である。財産管理・承継が大きな問題となる無縁者の大半は、高齢者であり、ここでもやはり、財産管理・承継が連続性あるものとして扱われていた。後者については、研究の最終年度に、その第一人者である教授達にインタビューを行い、最先端の研究に触れた。 大陸法の法体系に馴染んでいる日本法学者として、領域間の垣根が低く、実務的視点が強く反映されている米国の法制度を理解するのは容易ではなかったが、個々の法的事象ではなく、人がその一生において遭遇しうる法的問題という観点から、財産管理・承継問題を扱う手がかりが得られ、体系化への道筋を描くことができた。コロナ禍の影響により、国外での研究報告はキャンセルになったが、国内では、研究成果を随時公表することができた。2023年中に、それらを一書にまとめる予定である。
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