本年度の成果は2本の論文として発表された。1本目の論文は、流通チャネルにおける垂直的関係の形成に対して、制御焦点がどのような効果をもたらすのか、そしてその効果は日米でどのように異なるかを吟味する実験を行ったものである。これまで、関係特定的投資を伴う取引のオファーを受諾するかどうかについての研究は相対的に希少であった。さらには、こうした受諾行動に関する国際比較研究も行われていない。そこで本論では、(1) 流通チャネルにおける取引関係の開始にあたって日本人はアメリカ人より消極的であるのか、(2) 関係特的投資はなぜオファー受諾意図を引き下げるのかを問うた。日米のサンプルを用いたシナリオ実験の結果、アメリカ人は日本人よりも受諾意図が高いこと、関係特定的投資は交渉者の予防焦点をプライミングすることで受諾意図を低めるという媒介関係があることが見いだされた。2本目の論文は、流通チャネルの垂直的関係を構成する卸売業者に関するミクロ的な研究である。流通における卸売業者のミクロ的な介在根拠は,卸売業者が個々の顧客に対して提供する顧客価値にある。本論では,卸売業者がどのような顧客価値を提供しているのか,そして顧客価値はどのような組織的メカニズムによって作り出されているのかを問い,多属性モデルに基づいて卸売業者の顧客価値提供を描写する概念モデルを提案し,さらに実証分析を行った。その結果,配送の延期と流通サービスのカスタマイズ度が顧客価値に正の影響を与えており,それらは組織能力,仕入れの投機,そして人的資産特殊性から正の影響を受けていることが示された。
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