Kurano (2004)は、可換ネーター環の有限生成加群のGrothendieck群を数値的同値で割ったアーベル群に関する深い理論を展開した。そして、Chan-Kurano (2016)とDao-Kurano (2016)は、それに実数体をテンソルして極大Cohen-Macaulay加群のクラス全体で張られる凸錐(convex cone)を考察し、さまざまな顕著な結果を得た。2019年度はこれらの研究のアナログを考えた。すなわち、可換ネーター環上の有限生成加群のGrothendieck群を擬零(pseudo-zero)加群のクラス全体のなす部分群で割ったアーベル群に実数体をテンソルしたものを考える。これは実ベクトル空間であるが、これが有限次元であることを仮定する。(多くの場合、有限次元になる。)すると、それにはユークリッド位相を入れることができる。その中で極大Cohen-Macaulay加群のクラス全体で張られる凸錐を考える。この凸錐は、3次元以下の環に対しては、もとのChan-KuranoとDao-Kuranoが考察した凸錐と密接な関係にある。2019年度はこの凸錐を調べる研究を重点的に行った。具体的には、この凸錐の開核、閉包、そして凸多面部分錐(convex polyhedral subcone)の構造を詳しく考察した。また、もとの環が極大Cohen-Macaulay点(maximal Cohen-Macaulay point)を有限個しかもたないための必要十分条件をいくつかの位相的性質で与えた。さらに、階数1の極大Cohen-Macaulay加群が因子類群の中でどのようなふるまいをするのか、主にいつその個数が有限個になるのかという観点から調べた。
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