研究課題
2019年度は2018年度に引き続き、酸化チタンナノ結晶薄膜試料に分子プローブとして色素分子(フルオレセイン)を吸着させ、フェムト秒パルスレーザーを用いて、色素分子の過渡吸収スペクトルを測定するという方法で、酸化チタン結晶中で電子と正孔を生成する電荷分離の過程に続く酸化チタン粒子表面の水酸基の生成過程を観測した。吸着色素により酸化チタン表面の電荷状態をプローブするための測定を繰り返し行い、確実なデータの獲得に成功した。酸化チタン上での挙動について、シリカガラス上と比較して検討したところ、励起直後から480~580 nmの範囲で負の信号が現れ、通常のレーザー色素で観測される誘導放出と基底状態ブリーチングに帰属された。350 nmの光励起により、酸化チタンだけでなく色素も励起されているためである。経過時間とともにこれらの信号強度は減衰し、数十~百psのオーダーで色素の基底状態が回復した。この時間スケールにおいて、アニオン種に帰属される500 nm付近の負の信号強度がジアニオン種に帰属される520 nm付近に比べて大きく表れた。これは、酸化チタン上では、相対的にアニオン種の量が多くジアニオン種の量が少ないことを示している。また、基底状態ブリーチングの回復もジアニオンのほうが速かった。すなわち、酸化チタンの光励起により、アニオン種からジアニオン種への変化がおこっていることを示唆しており、色素から酸化チタンへのプロトン移動が観測されたためである。以上の結果より、酸化チタンに紫外光照射を行うと、表面に塩基性水酸基が生成するため、表面付近の水やその他のドナー分子から酸化チタン表面へのプロトン移動がおこることを提案する。
発表論文(Nishikiori et al., J. Phys. Chem. C, 124, 4172, 2020)の内容は同誌のSupplementary Coverに掲載された。
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