光反応を用いる有機合成においては、熱反応では得にくい高ひずみ化合物が直接かつ容易に得られるなどの利点があるが、最近のLED光源の発達とともににわかに脚光を浴びている。さらに、光不斉合成が脚光を浴びている。一方で、光反応には、励起状態のスピン多重度、エネルギー移動や電子移動、励起錯体形成や振動失活など様々な後続過程が短い寿命内で混在し、その精密制御が難しいという本質的な問題を有する。これまでに申請者は、光反応機構の解析に立脚し、電荷移動錯体の直接励起によりエキシプレックスとは異なる励起種が生成し、異なる反応性、しばしば高い立体選択性を達成できることを明かとした。本研究は、電荷移動錯体とキラルルイス酸を複合した新たな超分子系エナンチオ区別不斉光反応系を構築することが目的である。一般に、電荷移動錯体にキラルルイス酸を配位させれば、錯形成の促進、選択励起可能な可視吸収帯の発現、不斉情報の獲得が期待できる。しかしながら、どのような基質と試薬の組み合わせが最適であるかについては、必ずしも自明ではない。そこで本研究ではナフトキノンとアルケンとの光付加環化反応系を中心に、反応性、立体選択性の制御因子を解明するための実証実験を進めてきた。本年度は、ナフトキノンと多置換アルケンとの分子内光付加環化系のいくつかの反応を天然物合成へと応用可能なモデル系として選定し、その光不斉合成を検討した。初期的に得られた結果は既に国際共同共著論文としてChemPhotoChem誌に報告したところであり、現在投稿中の関連研究へも展開が進んでいる。その他の成果としては、J. Am. Chem. Soc.誌を含む計6報の論文報告、国際会議での招待講演などがあるが、ミュンヘン近郊都市の複数の著名な研究者との交流により今後のさらなる研究発展につながる基盤を構築できたことが、何よりも重要な成果であったと考えている。
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