最終年度は,昨年度に滞在した英国ラフバラ大学およびスウェーデンチャルマース工科大学における実験およびシミュレーション技術をさらに発展させるとともに,これらの成果について研究発表を実施した.まず,ラフバラ大学滞在中にはスポーツ頭部外傷メカニズムおよび試験法研究として,野球やクリケットなどのボール衝突時のインパクトを対象に実験を実施した.本実験では我々の次世代頭部ダミーおよび頭部衝撃計測実験系を持ち込み,これに既存頚部ダミーであるHybridIII頚部ダミーを装着して頭部ー頚部ダミーを構成し,それにスポーツ用ヘルメットを装着させ,野球ボール等を衝突させる実験を実施した.また,チャルマース工科大学滞在中においては,チャルマース工科大学と共同研究を実施しているカロリンスカ研究所にてマウスを用いた回転性脳損傷実験に参加し,この知見をもとに,頭部有限要素モデルの脳内部構造を改良した.これらの昨年度の研究成果を踏まえ,今年度は,チャルマース工科大学滞在中に改良した頭部有限要素モデルを用いて,英国ラフバラ大学にて実施した野球ボール衝突実験の再現シミュレーションを行った.その結果,野球ボール衝突時に頭蓋内において圧力波伝播により,高い正圧と負圧が繰り返されることがわかり,この現象が昨年度にボール衝突実験において観測された脳における特異な加速度の増加に関わるとともに,新たな脳損傷メカニズムと考えられうることを示した.
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