本年は,再現精度の異なる2つの水質モデルを準備し,水質モデルの現象の再現性低下が同化効果に及ぼす影響を把握した.一方は植物プランクトンの増殖において最適水温のないタイプの水温依存関数を持つ植物プランクトンを1種のみ考慮したもので,他方は季節によって優占種が異なる珪藻について,最適水温を考慮した水温依存関数をもつプランクトンが3種含まれるモデルである.当然後者のほうが同化なしの場合の年間を通した再現精度は高い. 後者については4次元変分データ同化に必要となる接線形モデルおよびアジョイントモデルを再構築し,データ同化を行った.どちらのモデルもデータ同化により,観測値に近いクロロフィル濃度分布や溶存酸素濃度を得ることができた.観測データ近傍では,もとのモデルの精度による違いは,データ同化を繰り返す中で,たかだか1.5日程度で解消される.一方で,観測点から遠い地点では差は大きく,あるいは,一つの同化サイクル(今回の検討の中では12時間)の中でも初期場の修正が終わって以降は徐々に乖離する様子が見て取れた.このことから,同化サイクルや得られる観測データの位置の分布(偏在のしかた)によっては元モデルが低性能であることを無視できないことを示した. 最後に,モデル自体の精度向上を図る取り組みでは,データ同化期間中にパラメータの最適化を行うことにより,水質モデル内のモデル係数を現地観測データから自動で推定する技術を確立した.その結果,同化を用いない計算でもモデルの再現性が向上することを確認した. これらの検討結果を用いて現在3本の論文を投稿中である.
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