下水の飲用再利用では水の安全性を最高レベルに保つことが必要とされており、逆浸透膜で阻止しきれない微量物質の膜透過性を原子レベルで予測する技術を開発することは、水の安全性を高めることに繋がる。しかし、膜処理中に膜面に堆積する不純物の層(ファウリング層)が膜透過性に及ぼす影響を表現する知見がなかったため、それを明らかにして基課題の膜透過性予測技術の実用性を高める必要があった。そこで本国際共同研究では、下水を膜処理した際に形成される堆積層(ファウリング層)内部における微量物質の挙動を明らかにすることを目的とした。本年度は、共同研究者である南洋理工大学のShane Snyder教授と共同研究を実施することにより、ファウリング層中の多種多様な物質の中から微量物質(ニトロソジメチルアミン)の挙動に影響を及ぼす物質の特定を行った。まず、下水処理水中の有機物成分を3次元蛍光法及び液体クロマトグラフィー有機性炭素検出(LC-OCD)等を用いて解析・特定した。さらに、膜分離法を使用して主要な有機物を分画した試料水を用意し、それぞれの試料水を使用して膜ろ過試験を行うことで阻止率変化を引き起こす物質を特定しようとした。その結果、下水処理水中の分子量300 Dalton以下の低分子量有機物が膜ろ過の進行に伴って逆浸透膜の表面や膜の構造内に堆積していき、ニトロソジメチルアミンの透過側への拡散を妨げることによってその物質の阻止率を向上させていることが明らかになった。期間全体の成果として、ファウリング層内部の低分子量有機物が微量物質の拡散に及ぼす影響解明が挙げられ、膜透過性予測技術の実用性を高めるための重要な知見が得られた。
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