本研究は,降雨流出過程の逆推定法を利用した「時空間スケール依存性」に関する研究成果を,水質データから推定した降雨流出過程の応答関数や滞留時間などの「ソフト・データ」を活用して検証し,観測とモデリングの両面から信頼性を向上させることを目的としている. 2022年度は,「降雨流出氾濫モデル(Rainfall-Runoff-Inudation [RRI] モデル」と研究代表者が開発した「降雨流出過程の逆推定法」を併用することにより,降雨流出過程における「空間代表性」の発現過程の解明に取り組んだ.具体的には,阿武隈川水系荒川支流の東鴉川流域を対象としてRRIモデルを構築し,降雨流出過程に関する仮想実験を行った.その結果を利用して,部分流域面積の増大に伴って河川流量の空間的多様性が徐々に減少して空間代表性が発現するかどうかについて検討した.さらに,「降雨流出過程の逆推定法」を利用して流域内の主要な降雨流出過程を逆推定し,降雨流出過程における空間代表性が発現する理由に迫った.その結果,Woods and Sivapalan (1995)が見いだしたように,東鴉川を対象とした仮想実験においても空間代表性の発現を確認することができた.また,「降雨流出過程の逆推定法」によって,流域面積の増加に伴って降雨に対する応答が遅い流出成分が卓越することによって空間代表性が発現する可能性が見い出だれた. コロナ禍により度重なる研究計画の変更を強いられたが,研究期間全体を通じて,降雨流出過程のスケール問題を構成する「時空間スケール依存性」および「空間代表性」の発現過程の実態を解明するという当初の目的を概ね達成することができたと言える.
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