オオムギをはじめとする穀物種子に見られる穂発芽は、可食部の減少や品質の低下を招くため、農業上大きな問題となっている。植物の種子が発芽するかどうかは、種子休眠の深さに左右される。オオムギの種子は、収穫直後は休眠が深い状態(休眠種子)にあるが、後熟期間を経て休眠性が低下する(後熟種子)。現在のところ、後熟過程において休眠性が低下するメカニズムの詳細はわかっていないが、この部分を明らかにすることができれば、穀物種子の穂発芽を抑制したり、逆に発芽を揃えるといった農業的応用が期待できる。 オーストラリアCSIROでは、オオムギ品種Golden Promiseの休眠種子と後熟種子が年度ごとに保管されている。そこで、それぞれの種子から胚を取り出し、タンパク質を抽出した後、トリプシンによる消化、リン酸化ペプチドの濃縮過程を経て、質量分析計による解析を行った。この比較リン酸化プロテオーム解析により、オオムギ種子胚から2000種以上のリン酸化ペプチドを同定することに成功した。また、休眠種子と後熟種子とでプロテオームデータを比較したところ、リン酸化されるタンパク質に有意な違いが認められ、特に休眠種子では植物ホルモンアブシシン酸(ABA)に応答してリン酸化されるタンパク質が多く検出された。一方、休眠種子ではそのようなタンパク質が認められず、ABAシグナル伝達が抑制されていることが示唆された。さらに、オオムギ種子胚からRNAを抽出し、オーストラリア国立大学の施設を利用して、illumina社のHiSeq3000次世代シーケンサーによってRNA-seq解析を行った。このデータから、mRNAの選択的スプライシングパターンを明らかにするために、エクソン-エクソン間のジャンクション部位を多数抽出した。現在、それぞれの種子のスプライシングバリアントについて詳細な解析を進めているところである。
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