ミトコンドリアは融合と分裂を繰り返すことでその形態を変化させ、様々な環境に適応している。ミトコンドリア分裂時には、ダイナミン様 GTPase Drp1 が中心的な役割を担っており、Drp1 欠損細胞ではミトコンドリアが分裂できないため、長くつながったミトコンドリアが観察される。また、Drp1 に依存したミトコンドリア分裂は、ミトコンドリアオートファジー(以下、マイトファジー)によるミトコンドリア分解時にも必須であると考えられてきた。しかし、申請者は、マイトファジーの過程では Drp1 非依存的にミトコンドリアが分裂し、その分裂様式は大きなミトコンドリアから分解対象となる一部のミトコンドリアが小さくちぎり取られるようにして分裂することを明らかにした。しかし、その分子機構については不明であった。 一方で、マイトファジー時には、隔離膜がミトコンドリア外膜タンパク質と結合することで、分解対象となるミトコンドリアを決定していることが報告されていた。またこのようなミトコンドリア外膜タンパク質は、強制的な発現によってミトコンドリアを断片化する活性を持っているため、マイトファジー時のミトコンドリア分裂にもなんらかの役割を果たしていることが考えられた。しかし、これまでこのようなタンパク質は複数報告されており、それらの関係性や重要性、組織での特異性などについては全く不明であった。 申請者が発見した新奇のミトコンドリア分裂分子機構を解明するために、ミトコンドリア形態研究の第一人者であるカリフォルニア工科大学の David Chan 教授との国際共同研究を行った。その結果、低酸素や鉄欠乏で誘導されるマイトファジーに必須な因子を同定した。それらはミトコンドリアが分裂する部位に集積する性質をもち、分裂にも関与していることが考えられた。
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