申請者らは転写因子OVOL2と表皮細胞に特異的なマスター制御因子との組合せが相乗的に働くことができ、線維芽細胞から表皮細胞に類似した細胞への転換を迅速かつ高効率に引き起こすことを見出し、これを利用した新しいダイレクトリプログラミング法の開発に取り組んでいる。本研究の目的は、それを生体に応用することである。 OVOL2とP63/KLF4によってin vitroで線維芽細胞を表皮細胞にリプログラミングしても、トランスクリプトームおよびエピゲノム全体では本来の表皮細胞と大きく異なっており、この方法によるリプログラミングは不完全であることが判明した。研究の過程で、低容量のEGFおよびBMPを培地に加えることで内因性のOVOL2の発現の上昇がみられ、形態学的・分子生物学的により表皮細胞に近い変化を誘導することを見出した。このことはin vivoでリプログラミングを行うことで、すでに存在する表皮細胞の微小環境を利用してリプログラミングを促進させる可能性があることを示唆する。さらに発生学的に表皮組織に近い乳腺上皮組織の既存データの解析を行い、上皮間葉移行のプログラムが乳腺上皮の分化誘導に深く関わっていることを見出した。これらの結果は新しい生体内リプログラミング法の開発に寄与する重要な知見である。 R04年度も新型コロナ流行の影響・および資金不足のため一度も渡航することができず、予定していたカリフォルニア大学アーバイン校との共同研究である動物実験を進めることができなかった。主に国内にてin vitroの実験を中心に研究を進めるに留まった。
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