本研究では遺伝子多型 beta3アドレナリン受容体(beta3AR)が、過活動膀胱に及ぼす影響を解析し、治療法の探索を目的とする。2021年度に国際共同研究としパルミトイル化解析を動物疾患モデルにて解析を行っている米国ミシガン大学の共同研究先に渡航を予定にしてたが、コロナ禍の状況で中止し、渡航期間が180日に満たなかったが、共同研究者とはオンラインにて共同研究を実施した。 本年度は国内の所属大学にて昨年から引き続き遺伝子改変マウスの作製と解析、加えて 培養細胞での研究を行った。作製したヒト化beta3ARマウスはヒトのbeta3ARプロモーター領域ごとマウスに挿入しているが、タンパク質レベルでの発現が低く、解析に困難を極めた。そこで、下流シグナルの標的を絞るために、パルミトイル化修飾によるbeta3ARの制御機構の詳細を培養細胞レベルで解析した。蓄尿/排尿時における膀胱体部の弛緩/収縮と,出口部である膀胱頸部と尿道における収縮/弛緩は、様々な神経伝達物資によって調節されているが、我々はアドレナリンと一酸化窒素(NO)に注目した。興味深いことに、細胞内にNOを産生させると、ヒトbeta3ARのパルミトイル化レベルが低下し、それに伴い、細胞質膜上での発現低下と、下流で産生されるcAMPの低下が観察された。一方で、パルミトイル化修飾がヒトより少ないマウスbeta3ARでは、NOによる影響は少なかった。これは、NOの下流で、パルミトイル化修飾酵素であるDHHCタンパク質が不活性化し、ヒトbeta3ARのパルミトイル化修飾の代謝回転が低下するためであることが判明した。既に前立腺肥大症に伴う排尿障害改善剤として、NOを誘導する薬剤の使用が行われているが、NOの作用は、血管の弛緩効果のみならず、ヒトbeta3ARを含むパルミトイル化修飾タンパク質全般に影響を及ぼすことが判明した。
|