研究実績の概要 |
【背景】高齢者特有の認知症疾患では、脳内環境が後天性に発症される疾患原因に関連することが推定される。1991年から多くの認知症患者を中心とした 臨床データと大脳皮質生検組織を保管しているKuopio NPH Registry and Tissue Bankとの共同研究を進め、脳代謝データと病理組織、脳脊髄液を利用し、疾患バイオマーカーを確立することを目的とした。【方法】脳脊髄液バイオマーカーとして2つの蛋白、受容体Q型チロシンフォスファターゼ(PTPRQ)、ロイシンリッチα2グリコプロテイン(LRG1)蛋白に注目した。脳内発現の役割と疾患に与える影響を日本人、フィンランド人の患者から解析した。【結果】PTPRQは、全脳病理組織を解析した結果、脈絡叢上皮細胞及び、脳室壁上衣細胞に強く発現が認められ、脳室拡大を示す成人慢性水頭症にて髄液中に多く含まれていることが判明した。多人種間で同様の傾向があり、病態を示すバイオマーカーとなることが発見された。LRGは関節リウマチ、がんなどの多くの病気に共通して増加し、血管新生蛋白として知られるが、髄液中LRG蛋白は特発性正常圧水頭症(iNPH)患者で、併存したアルツハイマー病様病理変化と独立して増加を示した。LRG1はiNPHの診断に有用であった。 【結語】本研究では脳脊髄液の疾患特異的蛋白の測定から、後天的に獲得した疾患特有の脳内環境を明らかとした。この研究結果は国際共同研究として海外紙へ論文報告した(PTPRQ; Nakajima M, Rauramaa T, et al. Eur J Neurol. 2021)、(LRG; Vanninen A, Nakajima M, et al. J Clin Med. 2021)。
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