近年、脳内ミクログリアの機能の変化が国内外で広く注目されている。米国およびヨーロッパのグループを中心に実施された大規模ゲノムワイド関連解析から、アルツハイマー病の危険因子として複数発見された遺伝子のうち、半数以上はミクログリアの貪食や細胞機能に深く関わる遺伝子であることが報告された。ミクログリアの機能の変化がアルツハイマー病をはじめ、筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病を含む神経変性疾患に密接に関わることは広く世界で認められている。細胞表面のヘパラン硫酸糖鎖は様々なサイトカインやケモカインと作用して細胞機能を調節している。ミクログリアの細胞表面に発現するヘパラン硫酸糖鎖の酵素的分解が、ミクログリアの貪食作用や細胞機能を制御する可能性については今まで検討されていない。成獣の脳から初代培養ミクログリアを単離培養する方法は大変な精密さが求められ、さらに分子細胞レベルのミクログリア機能解析を行うことは未経験の者には非常に困難である。これらの研究を実施するために既に本法を確立している海外共同研究者であるアレン博士のグループのもとに渡航し国際共同研究を実施した。渡航先の研究設備および抗体を使用し、初代培養ミクログリアの単離方法を取得した。サイトカインに対するミクログリアの応答を渡航先にて保管されている遺伝子材料を使用し検討した。ウィルスベクターを用いたヘパラン硫酸糖鎖分解酵素の発現により、ミクログリアの貪食能が亢進することが確認できた。また、ある種のサイトカインに対する応答には影響を与えないことが明らかとなった。本国際共同研究は概ね当初の計画通り実施され、期待された成果を得る事ができた。
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