高密度リポタンパク質(HDL)は、その血中濃度が高いほど脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の発症リスクが減少するとされ、HDLコレステロール量とは独立して、HDLの脂質搬出活性が冠動脈イベント発症リスクと逆相関するとの報告から、HDLの機能すなわち「質」の重要性が指摘されている。本課題における研究対象であるApoA-I binding protein (AIBP)は、HDL上のapoA-Iに結合し、HDLの脂質搬出活性などの作用を増強することが示唆されている。そこで、本課題では基課題の研究成果をもとに、AIBPやそのミメティクスによる動脈硬化に対する抑制効果について、in vivoで評価することを目的とした。リコンビナントAIBPがマクロファージ細胞からのTNFaやIL-6などの炎症性サイトカインの分泌を抑制することが分かっていたため、リコンビナントAIBPをマウスに投与して血液中の炎症サイトカイン量を測定して抗炎症活性を検証したところ、その効果は限定的であった。そこで、血中滞留性の改善を目的とした改変型のリコンビナントAIBPを作製し、まずは細胞における炎症サイトカインの分泌に及ぼす影響を確認すると、野生型とほぼ同程度の炎症抑制効果を示すことが分かった。また、改変型AIBPを投与したマウスのAIBP血中濃度を継時的に測定したところ大幅に増加したことから、予想した通りの効果が得られていることが明らかとなった。さらに、改変型AIBPをマウスに投与して炎症性サイトカインの量及び心臓切片における血管壁への脂質の沈着を検討した。コロナウイルス蔓延の影響で渡航期間は180日に満たなかったが、当初の研究計画に変更を加え、研究を完了した。
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