研究課題
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)に感染している一部のキャリアにおいて、HTLV-1関連脊髄症(HAM)を代表とする慢性進行性炎症性疾患や、造血器腫瘍である成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)が発症する。HAMの発症メカニズムとしては、HTLV-1感染T細胞が脊髄に浸潤し、ウイルス抗原であるTaxを標的としたウイルス特異的免疫応答が生じることで、その炎症反応により脊髄障害がおこる。一方でATLに関しては、Taxの発現が認められる症例は約20%であり、ウイルス抗原の発現抑制による免疫逃避機構が発症の要因の一つと考えられている。そこで、HTLV-1プロウイルス発現制御機構を解明するために研究を行っている。方法は、HTLV-1感染クローンと患者からのPBMC検体を用いて、プローブによるエンリッチメント法を併用したクロマチン免疫沈降シークエンス(ChIP-seq)とRNA-seqを行っている。ChIP-seqによるヒストン修飾マークは、キャリアにおいて転写活性のマーク(H3K9me3, H3K79me2)がHTLV-1全体で観察され、一方ATLでは3’LTR側でのみ観察された。これから、ATLでは5’LTRからのセンスの転写は抑制され、3’LTRからのアンチセンスの転写が起こっていることが考えられた。このヒストン修飾パターンから、HTLV-1プロウイルスの転写は病型毎に異なることが考えられた。そこで、mRNAの発現を調べるためmRNAシークエンスを行っている。現在までキャリア 6例、HAM 4例、ATL 32例のPBMCを用いてmRNA-seqを行った。
2: おおむね順調に進展している
他施設に協力を依頼し患者検体の収集を行っているため、おおむね順調に研究を遂行できている。
現在まで行ったキャリア 6例、HAM 4例、ATL 32例のmRNA-seqの解析を行う。また、同じ病型においても症例毎で大きく異なることが分かったため、HTLV-1プロウイルスの状態を確認する必要があると考えた。そこで今後はプローブによるエンリッチメント法併用DNAシークエンスを実施し、プロウイルスのシークエンスを確認する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 2件)
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