レトロウイルスであるHTLV-1はヒトゲノムに組み込まれた状態で潜伏感染をおこすが、ウイルスの発現を調節する転写制御機構については不明な点が多い。我々はプロウイルスの配列や構造、エピジェネティク制御をより詳細に解析するために、プローブを用いたHTLV-1プロウイルスの濃縮法を併用した次世代シークエンシングを報告した。これを用いて、HTLV-1プロウイルスのヒストン修飾やそれにかかわる転写因子、およびプロウイルス構造とATL発症との関連を明らかにする。 HTLV-1ウイルスの5'LTRからの発現は、通常抑制されていることが多いが、一方3'LTRからのマイナス鎖の転写は恒常的に活性化状態に保持されている。この機序の一つとして3'LTR近傍にエンハンサー領域が存在し、ChIP-seqにより同領域に転写因子のSRFとELK-1が局在することを報告した。さらに実際の症例サンプルにおいてSRFとELK-1の局在が観察されるか、ATLサンプル6例の末梢血単核球を用いてChIP-seqを行った結果、全ての症例においてSRFとELK-1の局在が観察された。 さらにプロウイルス構造とATL発症の関連を明らかにするために、エンリッチメント法を組み合わせたDNA-capture-seqを99例の患者検体を用いて行った。欠損型プロウイルスは、HTLV-1キャリアやHTLV-1関連脊髄症でも約2割観察された。ATL患者の増殖クローンでは約4割で欠損型プロウイルスが確認された。プロウイルス構造とクローン性増殖との関連の解析結果では、欠損型プロウイルスの感染クローンは全長のプロウイルスよりも有意にクローン性増殖を起こしていることが明らかになった。5'LTR側の欠損はウイルス遺伝子の一つであるtax発現が阻害されるため、宿主免疫監視機構から逃れることによりクローン性増殖に有利に働ている可能性が示された。
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